陽子さんのコラム


21話 愛想の良い息子は叫ぶ



11月末で4歳になる息子は、猫を見つけると
「ネコォ〜ッ!!」と、大声で呼びながら追い掛けて行く。
雀も、
「スズメェ〜ッ!!」と、大声で呼ぶ。


カラスも
「カラスゥ〜ッ!!」と、呼ぶ。
アリ、トンボ、ダンゴムシ、ハエ、チョウチョ…み〜んな、そのモノの名前で呼ぶ。
散歩中の犬も
「イヌゥ〜ッ!!」と、呼び側に寄ってく。


ある朝、これから保育園へ行こうという時、すぐ近くの道を、作業着にヘルメット
姿の、工事現場で働いているらしき人が通った。
息子は笑顔で、その人に声をかけた。
「ねぇー、工事中の人ォ〜っ!!」
え゛……。


「まってぇー、工事中の人ォ〜っ!!」
「……んあ!?…え!?俺の事?」
「工事中の人!おはよう!」
「……フッ…ハハハ、あー…おはよう…。」


「お仕事何してるの?」
「…へ!?…工事。」
「そっかぁ〜、お仕事の工事頑張ってね!工事中の人!」
「おぉ!ありがとう!」


「じゃあねぇ〜、工事中の人!バイバ〜イ!」
「バイバ〜イ!」
「…どーもスミマセン…。」
「いえいえ、人見知りしない良いお子さんですね。」
「…ハハハ。」
息子は誰にでも愛想がよい。


人見知りらしい人見知りが、なかった。そのせいか、近所の人達に、顔が
売れている。
みんな笑顔で息子を見てくれる。
誰にでも笑顔で心を開き、人懐っこい。
私は、息子のとても良いところだと思う。


だが最近、近所の人達から、よく言われる言葉…
「そんなに、誰にでも人懐っこくて、愛想がよいと、変な人に連れてかれちゃう
かもよ。最近物騒だから気をつけてね。」
確かに、近所の人達の言う事はもっともだ。


息子は、知らない人から勝手に物をもらったりはしないが、他の子と比べると、
他人にあまり警戒心がない。

そろそろ、優しい大人達ばかりじゃない事を教えるべきだろうか…。



第22話 子どもの目線は面白い


「お父さん、オッパイポヨヨォ〜ン。」
「誰がオッパイポヨヨォ〜ンだっ!?ふざけたこと言ってんじゃねぇっ。」
「ポヨヨォ〜ン、ポヨヨォ〜ン。」
「やかましいっ。」


「お父さんの事好きかい?」
「嫌い。」
「なんでぇ?」
「お母さんは好きだけど、お父さんは嫌いなの。」

「どうしてっ?お父さん優しいだろ?じゃあ、なんで嫌いなのに、抱っこ抱っこ
って言ってくるんだよ?」
「バカ。」
「なんでバカなんだよっ、ふざけたこと言ってんじゃねぇっ。」


「お母さん、お父さんのチ○チ○はね、髪の毛で埋まってるんだよ。」
「……アンタ…保育園で友達とか先生とかに、そんな話してないだろうね?」
「してないよ。」
「しちゃ駄目よ。」
「なんで?」
「駄目なのっ、わかった?」
「うん、わかった。」


「ねぇ、お母さん。」
「何?」
「お父さんのオシリは、どうして黒いの?」
「はぁ!?」
「洗ってなくて汚れてるの?」
「そんな事ないと思うよ、影になってて黒く見えたんじゃない?」
「そうかなぁ〜。」


「お母さん、お父さんは、お風呂でヒゲ剃るのが上手じゃないの?
下手くそなの?」
「なんで?」
「あのね、ヒゲ剃ったらね、いっつもね、顔から血が出てるから。」
「……ははははは。」


「お母さんは眉毛あるね。」
「お母さんは眉毛濃いんだよ。」
「眉毛がね、朝はあるのに、お迎えの時に無くなってるオバちゃんがいるよ。
あとね、○○先生ね、プールに入った後に無くなってた。」


「眉毛が少なくなっちゃって描いてるんだよ。」
「どうして少なくなっちゃうの?」
「どうしてだろうね、お母さんもわからない。」
「お母さんは少なくなってないんだね。」
「今はね、でも、もしかしたら、これから少なくなるかもしれないよ。」


「ふ〜ん。」子供の目線は面白い。



第23話 旦那の食文化


旦那と、以前一緒に旅行した時の話をすると、旦那は、旅館での
朝食や夕食、どこかに立ち寄り食べた物、列車の中で買って食
べた物など、旅先で食べた物の話ばかりする。


旦那と、以前一緒に遊びに行った所の話をすると、昼食に、どんな
所に入って何を食べたとか、遊園地内の売店で何を買って食べた
とか、出先で食べた物の話ばかりする。


私は、旅先で何かを見たり、何かで遊んだりした事は、だいたい覚
えているが、何を食ったとか、そんな事は、いちいち覚えていない。
旦那は隅々まで覚えているようだ。


私から見ると、旦那は、食べ物に対する情熱がスゴイ。
食べ物をとても重要視している。
以前、旦那との会話の中で、旦那は、
「○○に行った時に、昼飯で食った△△が旨かったなぁ〜、
いやぁ〜、アレは実に楽しかった!」と、言った。


旦那が何気なく言った言葉だが、私は内心びっくりした。
今まで生きてきた中で「美味しい」と、思った食べ物は、もちろん
あるが、それを食べていて、楽しいと思った事がなかったからだ。


映画を観て面白くて楽しかった、遊園地へ行ってジェットコース
ターに乗って楽しかった、友達と買い物に行って楽しかった。
友達と、美味しいと評判のスパゲッティー屋に行って楽しかった
…。


この場合、楽しかったというのは、友達と行ったから楽しかった
のだ。美味しいスパゲッティーを食べながら、共通の話題で盛り
上がり楽しかった。
後になると、食べた物の味よりも、友達と楽しく話をしながら…
の方が、強く印象に残るのだ。


旦那とも同じだ。
一緒にどこかに行って食事をした。
店内の風景は覚えている。
食べながら何の話をしたかとか、その時の旦那の表情とかは、
後になると記憶に残るのだが、食べた物の味は、記憶に残らない。


私の場合、一人で食べた物の味の方が、楽しくはないが記憶に
残る。誰かと一緒だと、その人と交わした会話とかの方が記憶に
残る。普段の食事でも、旦那は楽しそうに食べる。


揚げたて、焼きたて、グツグツ煮えたぎっている物に、ジュージュー
いっている物に、アツアツの出来立てに、妙な執着心がある。
「ほぉ〜ら!出〜来立てだぁ〜!食え食えェ〜!」
食えったって、熱くて食えねーし、そんな熱いもん口にほうり込んだ
って熱くて味解らんわ。


「ほら!旨いよ!食いなよ!ほら!ほら!」
ひとの皿に勝手にどんどん乗せてくる。
旦那は食べ物に、なぜ、こんなにも駆り立てられるのだろう。
勢いつけて食べる事に、どういう意味が込められているんだ!?
旦那と鍋をやると、正直疲れるものがあった。


相手を疲れさせる程、パワフルに生き生きと楽しそうに食べる。
私が幼い頃の食卓は、夕食時、父が仕事で帰りが遅く、いない
事もよくあった。
母と兄と私の三人での夕食は珍しくなかった。
母も仕事を終え、保育園に兄と私を迎えに行き、帰宅して休まず
夕食を作る。疲れているせいか会話が少ない。楽しくはない。


でも、つまらないとか、悲しいとも思った事もない。
それが、当たり前だったからだ。
朝食は家族全員そろっていたが、時間との闘いだった。
父は食べて会社に行くが、母は食べて会社に行く前に、兄と私を
保育園へ連れて行かなければならない。


母は言葉で兄と私を急かす事はなかったが、何となく母の
「早くしてほしい」という気持ちは感じとっていた。
私が中学生とか高校生になった頃には、父は残業、母も仕事や
仕事関係の人達との集まり、兄はバイトなど、一人での食卓も珍
しくなかった。


楽しくはなかったが、悲しくもなかった。
別に普通の事だった。
家族バラバラの食事。
だから、珍しく父の帰りが早く、一緒に夕食を食べると、食事を味
わうよりも、父と話をする方を重視していた。


土曜日など、学校から早く帰り、自宅で昼食を食べる日も、母が
出掛けている日は、テーブルの上に千円札が1枚置いてあったり
した。悲しいとも、寂しいとも、何とも思わなかった。
普通に買ってきて食べていた。


旦那は違う。
旦那の育った家庭では、家族全員そろって、
「いただきます。」と言って食べるのが普通だったようだ。
自営業で、家族がそろいやすかったというのも、あるかもしれない。


家族全員でヤンヤ、ヤンヤと、にぎやかな食卓だったようだ。
私は息子に
「お母さんも、お父さんみたいに、ご飯の時に笑って。
お母さんは作ってる時も食べてる時も、お仕事してるみたい。」
と、言われた事がある。


私には食事の時に、何をどうすれば笑えるのか、よくわからない。
確かに、旦那が息子と私に、作り手の人柄が物凄く伝わってくる
様な、ダイナミックなオムライスを作ってくれた時、旦那は作って
る時も食べる時も楽しそうだった。


形がうまく出来た事、味も美味しく出来た事を喜び、笑い、自分で
自分を誉めて、上手に出来たオムライスを楽しそうに息子に自慢し
て食べていた。


息子も、そんな旦那に、つられる様に楽しく笑っていた。
私は、旦那がどうして、食事を作るという事を、食べるという事を、
あんなにも楽しめるのか解らない。


家族全員そろって食べるより、一人でテレビを観ながら食べる
方が経験豊富な私は、何か大切な物を得られないまま、大人に
なってしまったのかもしれない。



第24話 食生活の不一致


以前、パートをしていたスーパーで知り合って、今も仲良くしてい
る友人がいる。


飾り気がなく、大人しく、可愛い娘で、当時、バイトの男どもに人気
があった。
それと同じ様に、バイトの女どもに、人気のあるイケメンの大学生の
バイトの男がいた。


その男が友人を好きになり、告白して二人は付き合い始めた。
付き合っている男女だから、当たり前だが、休憩時間が重なる日は
必ず一緒にいて、映画が安い日は、よく一緒にバイトを休みにして、
デートに行ったりしていた。


付き合い始めてから、2年程過ぎたある日、私が社員食堂で一人で
昼食を食べていると、友人が来た。


「高田さん、一緒していいですか?」
「うん、どーぞどーぞ。」
友人は、私の前に静かに座り食べ始めた。


「……。」
「……。」
「……?…んだよ…、通夜じゃないんだからさ…、なんか喋れよ…。」
「……高田さん。」
「…んっ?ハイっ?…何っ?」


「高田さんは…シジミ…… 食べますか?」
「シジミ?味噌汁とかに入ってるアレ?」
「そうそう!味噌汁のシジミ。」
「うん、食べるよ、だって身体にいいんだろ?アレ?それに、食べな
きゃ何のために入ってんのか解んないじゃん。」


「食べますよね!昨日、私の家で私がシジミの味噌汁を作って(彼
氏と)一緒に食べてて、私がシジミを食べたら、おかしいって言われ
たんです。
シジミはダシを取るために入ってて食べる物じゃないって言われたん
です。だから、おつゆだけ飲んで、シジミの身は全部捨てられちゃっ
たんです。」


「へ!?作ったアナタの目の前で捨てた?」
「はい…。」
「なんか…キツイね。」
「作ったのにってのもあるけど、食べ物を捨てるのって、私の中で
は、すごく抵抗のある事なんです。…なんか、すごくショックで…」


「シジミはダシって…。味噌汁作る時って、最初に昆布とか鰹節と
かでダシとってんの、知らんのかねぇ〜。」
「私は煮干しで、とりました。」
「うん、煮干しね、いいんじゃない。」


「二人で出掛けて、どこかで、御飯食べたりすると、結構平気で
残すんですよね。
マックとかでも、多く頼んで残して、ポテトとかザラザラ〜ってゴミ
箱に捨てるんですよ。もったいないって言うと、自分が金払って買
った物だから、どうしようと自分の勝手だとか言って。」


「ふ〜ん。ねぇ、さっきの味噌汁の話なんだけどさ、シジミを捨てる
んなら、アサリも捨てるのか?」
「さぁ…、いくらなんでもアサリは食べるんじゃないかな…。」
「ハマグリの吸い物とか作って、ハマグリをダシだって捨てたら、
私だったら絶っ対、完っ璧モメてるなっ。」


「ハマグリのお吸い物…、フリーターで一人暮しの私は作らないな
…。一度、作ってみましょうか?」
「いや、そんな事やらんでいい。物食う時以外、不満無いんでしょ?」
「はい、優しくて、とっても楽しいです!」
「なら、とりあえずいいんじゃない。」


それから数週間後、私が社員食堂で一人で昼食を食べていると、
また、友人が来た。


「高田さん、一緒していいですか?」
「うん、どーぞどーぞ。」
友人は、私の前に静かに座り食べ始めた。
「……。」
「……。」
さぁ〜、また食い物捨てたか〜?


「…高田さん。」
「ん?何?」
「ピザの端っこのチーズとか乗ってない所…。」
「食べる食べる!全部食べる!捨てたかっ!」
「あの…、あ…、はい…。昨日、私の家で宅配ピザを頼んで…。」
「な〜んか、ねぇ…。もったいないって言った?」


「いいえ、喧嘩したくないし…。」
「…ふ〜ん。サンドイッチとかも具が行き届いてない所とか残すの
かねぇ。」
「さぁ…。」
「手づくりサンドイッチ持って新宿御苑あたり連れてって残されたら、
私だったら、絶っ対、完っ璧に大喧嘩だねっ。」


「新宿御苑…、手づくりサンドイッチ…。一度、やってみましょうか?」
「やらんでいい、やらんでいい。」
それから二週間後、私がレジにいると、後から出勤して来た友人が
私の所にきた。


「高田さん、おはようございます!」
「おはよう。」
「高田さん6時までですよね?私7時までなんですけど、どっかで待
っててもらえません?たまには一緒に夕ご飯食べて、カラオケとか
行っちゃいません?」


「何?なんかあった?ついにモメたわけ?」
「もう、別れました!5日前に!」
「あら〜、そうだったの。」
「理由は、食生活の不一致ですねっ!」


彼氏と別れたという女は、過去何人か見てきたが、別れたてで、よく
食べ、よく喋り、よく笑い、とても元気な女を見たのは初めてだった。



第25話 辛口な息子


ある日曜日に、4歳の息子と、散歩していた。
公園で少し遊んだ後、手をつないで、適当にブラブラしていた。
ある商店街に行き、いろいろな店を見て歩いた。


自転車屋、輸入雑貨屋、和菓子屋、煎餅屋、八百屋…、
息子は、私の手を引っ張り、楽しそうだった。
しばらく歩くとミスタードーナツがあった。
「お母さん、ドーナッツが欲しい!買って帰ろ!」
「うん、いいよ。」


店に入ると、テーブル席の方で、何人かの人が麺類を食べていた。
「ねぇ、どれにするの?」
「長くてネジネジして茶色くて固くて粉ついてるやつ。」
息子のお気に入りは、シナモンクリスピーというドーナッツだ。


「これかい?」
「うん、それ!ねぇ、お母さん、あそこの人達ラーメン食べてるよ。」
「そうだね。もうちょっとで12時だね、食べたい?お腹すいた?」
「うん、すいた。」
「じゃあ、食べる?」


「ここは、ドーナッツ屋さんだから。」
「え?」
「ドーナッツ屋さんで一番美味しいのはドーナッツだよ。ラーメンは違うの。
ラーメンがね、一番美味しいのはラーメン屋さん。マサユキは、ラーメンが
食べたい時は、ここじゃなくてラーメン屋さんに行く。」


なんてことを……。
しかもデカイ声で……。
食べていた人達は、なんだか微妙な表情だった。
店員さんも微妙な笑顔だった。
なんだか妙な雰囲気になった。


ズラかろう。
さっさと買って、足速に店を出た。
「あのね、確かにドーナッツ屋で一番美味しいのはドーナッツだと思う
し、ラーメン屋で一番美味しいのはラーメンだと思うよ。でも、あまり、
あーいう事は、大きな声で言わない方が良いと思うよ。いらない、
食べないってだけ言えばいいの。」


「ふ〜ん、わかった。」
「それにしても、あんた言う事辛口ね〜。」
「お母さんには負けちゃうけどね。」

なにも言い返せなかった。

ちょいと箸休めに戻る

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